検察官の求刑は禁錮2年6月、被害者参加人の科刑意見は懲役7年というもので、判決はいずれの求刑も下回る結果となったが、交通事故の場合、死亡事故であっても実刑となるのは極めて稀だ。
令和元年の法務省統計によれば、過失運転致死罪で公判請求された者のうち実刑になったのはわずか4.6%。本件では裁判官がこの被告の悪質性を認め、それを加味した結果といえるだろう。
裁判官は事故状況について、判決文に次のように記している。
『現場が片側1車線の見通しのよい直線部分で、日中であったから、通常であれば、追い越しを始めるに際して対向する被害車両を容易に発見できたはずであり、(中略)したがって、被告人が、本件追い越し自体の危険性を、速度はもとより対向車両の有無及び安全確認の面から優に予見でき、事故を回避するため、判示の基本的な注意義務を果たすことも容易であったことが明らかである』
そして、こう断じている。
『被告人は高速度で追い越しを始めるに際し、前記注意義務を怠ったのであるから、その過失の程度は、被害者の落ち度がない中、一方的かつ重大なものである。被害者を死亡させた結果は重大であり、このことは遺族が次々と陳述した心情に関する意見からも推察される』
しかし、判決文はこれで終わりではなかった。被告を異例の実刑にした理由について、次のように述べられていたのだ。
『被告人が任意保険に未加入であったため、十分な損害賠償がされる見込みはない。そうすると、強制保険が遺族に支払われたことなどを考慮しても、本件犯行に関する事情は悪質であり、刑の執行を猶予する余地はない』
実は、被告人はこの大型バイクに任意保険をかけていなかったのだ。
自賠責保険の「傷害」部分に支払われる保険金は120万円が上限だ。しかし、重傷事故の場合、この程度の金額では全く足りない。
実際に、この事故で亡くなった被害者の場合、救急搬送された救命センターで緊急手術を受け、大量の輸血が行われているが、亡くなるまでの15時間にかかった総医療費は658万1540円だった。
また、被害者が死亡した場合は、損害賠償として逸失利益や慰謝料などが積算されるため、50代男性の場合は自賠責保険だけでは到底足りない。そこで、そのオーバー分を補うためにあるのが任意保険だ。
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Source: バイク速報